大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和39年(う)1385号 判決

被告人 百瀬幸夫 外一名

〔抄 録〕

弁護人の控訴趣意について

所論は、種々主張するが、控訴理由として認められるものは、要するに、(一)本件株券(暗株)の作成は脱法ではあるが罪とはならないものであるのに、原判決が右につき刑法第一六二条第二項を、同行使につき同法第一六三条を適用したのは事実の誤認ないし法令の解釈適用を誤つたものであり、(二)刑法第一六三条の罪は財産罪を包含するものであるから、右行使の罪のほか詐欺罪に問擬した原判決には事実の誤認ないし法令の解釈適用に誤りがあり、(三)本件はいずれも法人である甲南工業株式会社の執行権者である被告人百瀬の責任であつても同被告人個人の責任ではないから、被告人百瀬の責任を認めた原判決は事実の誤認ないし法令の解釈適用を誤つたものであるという主張に帰する。

しかし、原判決挙示の関係証拠によれば、被告人百瀬の原判示所為はすべてこれを肯認することができるのであつて、他に右認定を左右するに足る証拠は存しない。そして(一)本件の株券作成(正確には株券虚偽記入)は他人の作成名義を偽ることなくして自己名義で有価証券である株券を作成するにあたり行使の目的をもつてこれに内容虚偽の事項を記入した場合であるから、右所為は刑法第一六二条第二項に該当し、右虚偽記入にかかる株券を行使した所為は同法第一六三条に該当することが明らかであり、(二)刑法第一六三条の罪は有価証券の真正に対する公共の信用を侵害するものであつて罪質上財産罪を包含するものとはいえないし、虚偽記入にかかる株券を行使するにあたり他から財物を騙取する所為は、社会的法益である公共の信用のみならず個人的法益である他人の財産をも侵害するものであるから、右所為が同条の罪のほか詐欺罪にも該当すること明らかであり、(三)本件はいずれも法人である甲南工業株式会社の代表取締役社長の地位にある被告人百瀬がその職務に関し犯罪行為を犯したことは証拠上認められるが、法人の機関の地位にある個人の行為は機関の行為としてなした行為であるがために個人自身の行為たる性質を失うものでないから、被告人百瀬個人に刑事責任があることは当然である。以上の次第であるから、原判決には何ら事実の誤認ないし法令の解釈適用の誤りは存しない。論旨は理由がない。

(足立 栗本 浅野)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!